宮城興業のパターンオーダー「和創良靴」を6年履いた感想

「和創良靴」は、山形県にあるシューファクトリー、宮城興業が展開するパターンオーダーシステムです。全国の提携店で採寸し、ベースとなる木型やデザイン、革、底材などを自分好みに組み合わせて一足を仕立てるというもので、比較的手に届きやすい価格も手伝って、日本の革靴好きには良く知られた選択肢かと思います。


宮城興業ES-37アデレード/アノネイ2761(ダークブラウン)

私も今から6年ほど前にこの和創良靴を一足手に入れました。前回の記事で「靴は購入して5年くらい経つと長い付き合いだと感じ始める」と書きました。この靴についても、一度これまでに感じてきたことをまとめておきたいと思います。

ひとことで言うと、「大好きな一足には絶対に選ばれない微妙さ」と「これでいいという安心感」が同居している靴です。

ディテールを見ると微妙なところだらけ

この靴を眺めていると、至る所に「惜しい」と感じるポイントが顔を出します。それらは決して致命的な欠陥ではないのですが……絶妙に「微妙」なのです。


出し縫いの奥に除く不自然な縫い目と、アッパー前部底面の歪み

微妙ポイント① 出し縫いの奥に覗く不自然な線

まず、アッパーとウェルトの隙間が妙に広い気がします。ウェルトが密着していない。

そして目を凝らすと、出し縫いの奥に、白く細い縫い目のようなものが線状に見えます。分解したわけではないので断言はできませんが、おそらく「すくい縫い」の糸が見えてしまっているものと思われます。

効率を求めるゆえか、ウェルトの追い込みが甘い。構造的には問題ないのですが、いわゆる高級靴と呼ばれるものではなかなか目にしないディテールです。

微妙ポイント② アッパー底面のゆがみ

甘いといえば吊り込みも甘いのかもしれないという印象です。キャップの切り替え線のすぐ前あたりのアッパーに、わずかな凹凸(ゆがみ)が見受けられます。

キャップとヴァンプの革が重なる部分の段差による影響で、吊り込みの際に力が不均一にかかってしまったのか。あるいは先芯の接着との何らかの干渉が原因なのか。これも欲を言わなければ許容される個体差だと思いますし、靴の機能として特に支障はない部分ではありますが、なんとも惜しいところです。


アッパー表面の表情

微妙ポイント③ アノネイの素顔すぎる表情

アッパーの革はアノネイのダークブラウンを選択しましたが、様々な情報を総合すると、この革はおそらくボカルー(Vocalou)だと思われます。そして……その表面にはトラや血筋が隠されることなく配置されています。

名門タンナーの革を限りなくリーズナブルに提供する努力なのでしょうか。アノネイだからといって完成された美しさを期待すると、その飾らなさはやはり微妙に映ります。

微妙ポイント④ 頼りなげな中底の質感

中底はやや薄手もしくは柔らかめで汚れやすい印象です。エッジには吊り込みの力がかかった部分が皺となって表れてきています。(これは汚くて恥ずかしいので写真は載せません。)

おそらく、ベンズではなくショルダーの革を使用した中底なのでしょう。やはりトラや血筋が多く、革の繊維密度が不均一なのだと思います。そのせいで、汗や摩擦による汚れが沈着するスピードに差が出やすく、結果として紋様を強調するように浮かび上がってしまうのだと推察されます。

馴染みの早さは感じますが、重厚な高級靴の背骨のような剛健さを求めると、やはり少し物足りなさを感じてしまいます。

微妙ポイント⑤「快適」と「不快」の境界線にあるライニング

ライニングは前半分には吸湿性の良い豚革を使いつつ、後半分には顔料が強く、少し蒸れやすいブラックレザーを配した仕様。色移りを防ぐための策とはいえ、足を通すたびに感じるわずかな熱のこもりは、完璧な快適さとは言い難いものです。(ただし、これは現在は素上げ革を選べる仕様になっているという情報もあります。)

なぜこの靴を選んでしまうのか

それなのに、不思議なことが起こります。「今日は最高の一日を過ごそう」と気合いを入れる朝、この靴が選ばれることはまずありません。しかし、履きたい靴がなかなか定まらないとき、私は「これでいい」とばかりに結局この靴に足を入れています。つまり、この靴は「最高の消去法」によって選ばれる一足となっているのです。

初期は「一応アノネイです」と言わんばかりに硬さまで微妙なアッパーでしたが、数年経つ頃からしっかりと足に馴染んできました。当初は光らなかった表面も、今やブラッシングだけでそこそこ奥深さが出るようになり、最初は削れやすかった本底は、圧縮されてかなりのタフさを手に入れています。

「大好き」という熱狂はない。けれど、「これでいい」と思わせる安定感がある。テンションの上がり具合いがゼロである代わりに、ストレスもほぼゼロ。この「裏切らない中庸」こそが、この靴が持つ最大の、そして最も実用的な魅力となっているのです。

八丁堀の記憶と「餅は餅屋」のこだわり

この靴の成り立ちには、もう一つの大切な背景があります。それは、私がこの靴をオーダーした、今はなき八丁堀の「加賀屋靴店」での記憶です。ネットの情報によると、加賀屋靴店は「コロナ禍前まで」営業していたとのこと。

私が加賀屋靴店を訪れたのは2019年末~2020年初頭ですから、パンデミックが世界を覆う直前、閉店ギリギリのタイミングだったということになります。対応してくれたのは、経験の深さを感じさせるご年配の女主人。あの時、彼女が私の足を測り、導き出した数値があったからこそ、この「微妙なディテール」を持つ靴が、6年後に「ちょうどいい、これでいい」へと結実しているのでしょう。

もちろん、今フィットしているのは結果論かもしれません。でも1つ言えるのは、もし数ヶ月ずれていれば、この一足はこの世に存在していなかったということです。

最近、宮城興業のオーダーを受け付ける店はテーラー(服の仕立て屋)の割合が増えている印象です。もちろんテーラーという場所は素敵ですが、私には「靴のことは、靴の専門家に任せたい」という、「餅は餅屋」への拭いきれないこだわりがあります。

所詮はビスポークではない、単なるMTO、パターンオーダーです。それでも、私は、たとえ間に合わせの既成の安靴だったとしても、「靴メーカーが作った靴」を「靴屋さん」で買いたいと思っています。